42の価値について

--

42 Tokyoの立ち上げから早3~4年が経ち、感慨深い。2020年6月に開校し入学してきた人たちは、時が流れるとともにそれぞれ唯一無二の物語を歩んでおり、当時の学生から「42東京があって良かった」と言われるたびにとても嬉しく思う。

この3~4年間、「黒船上陸」した時から変わらずに42の価値をちゃんと維持し提供できているのだろうか。そもそもその価値とは何なのか。その価値を維持し続ける価値はあるのだろうか。そして、どのように維持し続ければいいのか。

42の価値について、42在籍歴7年(学生3年+スタッフ4年)の自分よりも10年以上もの間、42を見守ってきた42の創設者であるXavier Nielさんが42の10周年の時に語ったとある実話を通して、皆さんにお伝えしたい。

今日は、ビクトルの物語をお伝えしたいと思います。
ビクトルは中学ではあまり上手くいかず、中学3年生の頃に学校を中退してしまいました。幾度か学校に戻ろうと試みますが、3ヶ月後には諦めてしまう日々でした。
18歳になったビクトルは日本へ旅立ち、2年後にフランスに戻りました。フランスでは、友人と一緒に建設業の会社を立ち上げたり、飲食業で働いたり、子供の世話をしたりもしました。再び学校にも戻ろうと試みますが、諦めてしまいます。彼はずっと自分探しを行なっていたのです。
ある日、彼は「42」というものを見つけました。それは『教師のいない無料で24時間365日開放されているコーディングが学べる学校』で、高校卒業証書は必要ありません。彼にとって「これだ!」と直感的に感じるものがありました。
怪しいと思いながらも応募サイトに登録しました。応募サイト上で行われる入学試験(合計2時間の2つのミニゲーム)はビクトルにとって長期間を要するほどハードルが高いものでした。
そして、なんと彼は入学試験に突破し、Piscine(42に入るための選抜試験)を受けることになりました。1か月間添付の様な場所でコーディングの基礎を学びます。コンピュータに詳しくなくても問題なく、ただモチベーションがあればいいのです。とんでもないほどのモチベーションがあれば。
ビクトルは全力で取り組みます。どちらにしろPiscineか軍に入るかの選択肢しかないからです。Piscineは彼にとって最後のチャンスでした。
Piscine終了後、あとは結果を待つだけ。そし彼は見事Piscineに合格し、42に入学することになりました。
そこで彼はたくさんのことを学びました。1年半後、彼は給与が1250ユーロ/月(約19万円)のサイバーセキュリティのインターンシップを見つけました。
インターンシップは順調に進み、上司から正式に正社員雇用の話があり、42を卒業せずとも初めての正規雇用契約にサインしました。
現在、ビクトルは大手銀行の子会社でサイバーセキュリティを担当するチームを率いています。プライベートでは家を持ち、好きな仕事をし、満足する給料をもらっています。そして、2か月後に結婚します。かなり幸せそうです。
私たちが42を立ち上げたのは、ビクトルと似た境遇のような人たちの為です。人生に迷っているけれども迷いたくない人々の為に。成功したいけれどもどうやって成功するかわからない人々の為に。学校が好きではないけれども学びたい人々のために。
あなたは一人ではありません :)
このような物語は10年間で37000件、世界中の50のキャンパスで生まれました。
他にも、6か月前に学校に入学した長期失業中で2人の子供を一人で育てる47歳のサンドラの物語。
また、14歳でタリバンが父親を殺した後にアフガニスタンから逃れ、パリに到着した時にフランス語を一言も話せなかったレテフの物語もあります。彼はこの月に42のカリキュラムの最初の部分を終えます。
このような物語が、これからも何万と続くことを願っています。 お誕生日おめでとう、

42

42の価値は、このような物語が生まれ続けることにある。42東京からもフランスの42に負けないぐらい様々な物語が生まれている。1つの参考例として、以下のような物語が生まれている。

42東京からこのような物語が生まれ続ける限り、その価値を維持し続ける価値はあると自負している。しかし、このような物語が偶発的に1つや2つしか生まれない場合、42東京は維持し続けられるのだろうか。1つや2つの物語のために、維持する際に必要な三者(学生、運営、出資者)の支援は得られるのだろうか。現実的に考えると維持し続けれらない。維持し続けるには、物語の数が増えていくグロースサイクルを回し続けるしかない。

ざっくりしたグロースサイクルは以下のようになる。

応募者の増加があり、入学したことにより学生が増加し、卒業した学生が社会へ飛び立ち、社会へ飛び立った42東京の卒業生の物語のおかげで認知が増え応募者の増加につながり、といった無限ループである。

運営はその無限ループを作り上げて、維持するために存在する。例えば、自分が担当しているのは、教育カリキュラムのインフラである。インフラと言っても、物理的なサーバから42の哲学といった抽象的なものまでを取り扱う役目である。1つの業務内容として、「応募者の増加」から「学生の増加」のパイプライン(入学試験Piscine)を見守る人である。他には、「認知の増加」から「応募者の増加」のパイプラインを厚くするために広報の方々も参画している。運営資金を確保するために営業の方々もいる。自分1人で全てを担うのは到底無理で、仕事であろうとボランティアであろうと42東京の維持に関わってくれた方々がいるおかげで、今もまだ42東京を提供し続けることが可能だ。今まで関わってくれた方や関わってくれている方々には、感謝しかない。

本来であれば、先ほど出てきたグロースサイクルの図を維持し続ければいいのだが、現実は下のような図である。

「学生の増加」から「社会への増加」のパイプラインが途絶えている、もしくはとても薄い。物語は42東京をターニングポイントとして社会に出るから価値があるのだが、そのパイプラインが危うい。このままではグロースどころかクローズになる。

グロースできない理由として、以下の二つの問題がある。

  1. 42東京からの除籍。除籍しても納得いく物語を歩まれているのであれば、それはとても嬉しいことなので問題ないが、不本意な結末の方が多い。
  2. 42東京に居座る。42東京に居座るということは、物語の起承転結の「転」に居続けることなので、まだ物語が終わっていないような状態である。42は人生の分岐点であって、終点ではない。

自分が「Road to」カリキュラムを作ったのは、この問題を解決し、学生の物語を生み出すためだ。ただし、自分だけではこの問題を解決することができないため、様々なスタッフが入ってきた。一人一人の学生と向き合い、各学生が唯一無二の物語を歩めるようにと。

社会に出ることが不安な学生、就職できるのか不安な学生、Blackholeに飲み込まれそうで不安な学生、自分の物語に悩んでいる学生…

新しいスタッフが実施してくれるのは、物語のレビューである。42東京のコードレビューのように、新しい気づきを与えてくれるかもしれないので、自分の物語に何も不安がない方でもぜひ相談してほしい。あるスタッフはキャリアコンサルタントなので想像もできなかった未知の物語を示してくれるかもしれない。

そして、その物語は皆さんの人生におけるかけがえのない瞬間となり、未来の42東京生の希望になり、新たな物語を生み出す。

「42東京があって良かった」という気持ちを次の世代にも思ってもらえるよう、42東京はこれからも42の価値を提供し、維持し続けられるように、42東京の主人公である学生皆さん一人一人の物語を生み出すことに尽力する。

--

--